Bath-roomからBed-room
by 槇野知宏様
「ねえ、渉くん。あとで一緒におフロ入ろうか?」
食後に缶ビールを飲んでいた美和子さんの一言にオレは飲んでいたビールを危うく吹き出すところだった。
「き、急にとんでもない事を言わないでくださいっ!」
「ちょっと狭いかもしれないけど気持ち良いわよ」
「あのですね、オレにも心の準備とかが・・・」
『心の準備って、一体何だよっ!!!』
オレの心の中にいる煩悩の塊がお笑い芸人ばりにツッ込んでいる。
「何照れてるの?私たち夫婦だから良いじゃない」
「い、いや・・・そのう・・・」
確かに結婚してから夜を共にしているので今更照れる必要は無い。
しかし“一緒におフロ”と言われると何故、恥ずかしさが先行してしまうのだろう。
「何、考え込んでるの?」
「あ、いや、大した事では・・・」
「背中流してあげるわよ?ね、いいでしょ?」
下からのぞき込まれる様に言われてしまうと反対する理由が無く、自分の煩悩がガッツポーズをしている事をオレは気付いた。
“好きな女性のお願いには逆らえない”
これは男の悲しい性というべきなのだろうか―――
☆☆☆
湯を張った浴槽に2人で浸かる。
現状は、オレの両足の間に美和子さんがいる、という状態だ。
「やっぱり、フロはいいなあ」
「こうやって湯船に浸かってると日本人に生まれて良かったって思っちゃうのよねえ」
「ホント、そうですね」
思えば独身時代の殆どをシャワーで済ませていたが、やっぱり湯船にどっぷり浸かるのは良い気分だ。
しかも今日は美和子さんと一緒という点を考慮すれば尚更だろう。
「さすがに露天風呂なんかと比べたら天と地の差があるかもしれないけど」
「いえ、これはこれで気持ち良いですよ」
「こーいう事やってると、あの映画を思い出すわよねえ」
確か10年以上昔にヒットした映画の中に、浴槽を泡だらけにして体を洗うというワンシーンがあったのをオレは思い出す。
「渉くん、それやろうか?」
「いいですけど、変な事しないで下さいね」
「あのね、それは私が言うセリフでしょ」
泡いっぱいの浴槽、フロ場一面に広がる湯煙、泡だらけになりながらオレの体を洗ってくれている美和子さん―――他の誰にも見せたくない幻想的な光景ではある。
「後でまとめてシャワーで流すからね」
黙って頷いて何気に美和子さんを見ると、動かしていた手が止まり顔も真っ赤だ。
「どうしたんです?」
「えっ・・・あ、ごめんなさい。何かさ、渉くんって体がっしりしてきたんじゃない?」
「毎日のように事件現場を走り回ってるからだと思いますけど、それが何か?」
「な、何でもない。背中洗うから、ちょっと身体を起こして」
言われるがまま身体を起こすと、視線の先には美和子さんの白いうなじ。
その部分に唇を近づけようとした瞬間、身体の一部に異変が起きる。
状況としては上体を起こした時にオレの胸と美和子さんのそれが接触した途端、男の生理現象が起きてしまった次第だ。
「やだ、渉くんったら!」
「しょうがないでしょう、オレだって男なんですから。それにこーいう状況でナラナイ男をオレは疑いますよ」
そう言いつつ右手で美和子さんの胸をまさぐる。
「あっ・・・ダメ、渉くん」
「何時もながら思うんですけど、この感触がなんとも・・・」
「ダメだったら」
声と同時に彼女の左手がオレの右手首を掴み、指を軽く甘噛みされた。
「ここでするのも新鮮だけど、続きは寝室でね・・・お願い?」
「はい、分かりました」
☆☆☆
寝室のベットの縁に腰掛けて美和子さんを眺める。
鏡台の前に座って髪を梳かす後姿は湯上りとあってか艶めかしさを感じさせる。
「ん?どうしたの、渉くん?」
オレの視線を感じてか、美和子さんがオレの方へ振り向いた。
「いえ、何でもないです・・・ちょっと狭いですけど来てください」
「あのね、このベッドは私が学生の頃から使用しているのよ?自分のものみたいな言い方しないで」
「悪かったですね」
「悪くない」
苦笑しながらベッドに倒れ込むと、美和子さんからキスを求めてくる。
それに応じようとした時に彼女の左手がオレの下着の中に入りこみ、ある部分を掴んだ。
「ちょ・・・ちょっと待って下さい」
「ダメよ。オフロ場での仕返しなんだから」
引きずり出したそれを愛しそうに両手で捧げ持ったかと思えば舌を這わせる。
「くっ」
行為としては“舌を這わせる”というより“軽くキスをする”に近いため、部屋に響くのはその音だけ。
「み、美和子さん、何か今日は・・・」
「うん、興奮してるみたい・・・お酒飲み過ぎちゃったかな?」
「・・・結構な量を飲んでましたからね。明日、空き缶を見たお義母さんに怒られますよ?」
「それは言わない約束でしょ。それから、せっかくのムードに水を差さないで」
オレのモノを弄びつつ右手で自分のパジャマのボタンを外していくが、はだけたパジャマから見える
のは下着ではなく、白い素肌。
「寒くないんですか?」
「大丈夫。どうせ渉くんが温めてくれるから」
そう言ってオレのシャツをたくし上げと、自分の乳首をオレの同じ箇所にあてる。
「うわっ・・・」
胸が密着した状態で首筋に美和子さんの舌が下方を這いまわり、オレの胸を舌先で丹念に舐め回す。
『攻められっ放しというワケにもいかないから、そろそろ反撃するか』
ちょうどオレが下、彼女が上、という図式だし、幸い両手は自由だから反撃のチャンスは十分にある。
右手で彼女の左胸を丁寧に揉みしだくと、美和子さんが胸から顔を上げた。
「んあ・・・あ・・・」
彼女の声を聞きながらも、オレの手は更に空いている右胸を攻めたて、左手で秘所を撫で回す。
「美和子さん、すでに濡れてますけど?」
「あっ、やだ・・・見せないでよ、バカ」
羞恥心から顔を真っ赤にさせる彼女に優しいキスをすると、それに応える美和子さん。
「ねえ、渉くん。そろそろ・・・良いかな?」
「オレは何時でも大丈夫です」
頷いた彼女は自分の秘所をオレのモノにあてがうと、上から下へゆっくりと挿入する。
「んっ・・・」
「それじゃ、動きますよ?」
「ひあっ・・・ああっ」
彼女の腰を固定し、ゆっくりと動く度に美和子さんの甘い呻き声が響く。あまりの気持ち良さに全身が溶ける感覚を憶えた。
体勢を変えてベッドに美和子さんを寝かせてもオレの攻めは止まるワケでもない。
耳に入るのはオレの動きと比例するかのように大きくなっていく彼女の声とベットが軋む音だけ。
「ふうっ、あ、あ、はぁぁ・・・」
「声が大き過ぎますよ」
「じゃあ、渉くんの口で塞いで」
求めに応じて美和子さんの唇を塞いで上体を起こすと、舌同士が絡み合って互いの唾液の音が混ざる音が聞こえる。
「・・・っ、はあっ、んんっ」
「くそっ」
唇を離すと唾液が糸を引いているが、すでにオレ自身が限界点に達しようとしていた。
「や、やべっ・・・これすぐにイきそうだ」
「イっても良いけど・・・キスしながら・・・ね?」
頷いたオレは美和子さんの唇を再度塞いで動きを早める。
「「ん、んっ、んんん〜っ・・・」」
その瞬間、オレと美和子さんは同時にベッドに倒れ込んだ―――
「はぁ、はぁ・・・何か全て絞り取られたって感じだよな・・・はぁ」
全身に残る気だるさと、全てを出し尽くしたという解放感が何とも言えず心地よい。
そんな余韻に浸りたかったのだが、全身を包むのは室内の冷たさだった。
美和子さんと密着している部分は熱いくらいだが、そうでない部分が大半なので寒さを感じてもおかしくはない。
『眠いんだけど、このまま寝たら風邪ひくよなあ』
そう考えていたら、隣から可愛らしい寝息が聞こえる・・・実行者は当然、美和子さんだ。
「おーい、美和子さーん。風邪引きますよー」
室内にオレの囁き声が虚しく響いていった・・・当然、次の日は2人して風邪を引く羽目になったのは言うまでもない。
終わり
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