a passion mark
by 槇野知宏様
風呂上りの私が濡れた髪の毛を拭きながら寝室に入った時、真っ先に飛び込んで来た園子さんの姿。
別に彼女が寝室にいる事には問題はない。
ただ彼女の格好に私は驚いてしまった。
普段なら色違いのパジャマを着ているのだが、園子さんが身に付けているのは薄手の生地を使用した下着らしい衣服。
しかも首から肩のラインが丸見えなため、私が驚くのも無理はない。
「そ、園子さんっ、そんな格好をしていては風邪を引きますっ!」
「大丈夫よ、真さん。それよりも、これ似合う?」
そう言って彼女が2、3度ばかり身体を回転させると、照明の光に反射して生地が輝く。
それだけならまだしも、外気に晒された肌が艶やかに光っているので、私としては目のやり場に困った。
肌艷が良いと言うべきか・・・いや、全身から発せられる何かがいつもと違う。
私は彼女が大学から帰って来た時、既に気付いていたのだが“気の所為だろう”と思っていた。
『何だか、いつもの園子さんと違う・・・急に綺麗、いや、元々から美人なのに今日は凄く綺麗だ』
「・・・さん、真さんったら。どうしたの?聞いてる?」
ふと気付くと、私の眼前で園子さんの手が揺れていた。
「えっ?あ、な、何でもないです」
「“何でもない”じゃないでしょ?どうしたの?」
「いや、大した事ないですよ。本当に」
慌てて誤魔化そうとしたが、園子さんの視線が下から私を突き刺す。
この下から見上げるような視線に私は弱い・・・結局、私は全てを吐く羽目になった。
「じ、実はですね・・・今日の園子さんは凄く綺麗なんですが、何かあったのですか?」
「あ、分かった?さすが真さん。実は今日、蘭と一緒にエステに行ったのよ」
「あの、園子さん・・・エステって何です?」
私の質問を聞いた園子さんが私の方を見て大きく溜息を吐く・・・はて、私は変な事を言ったのだろうか?
“何だか真さんらしいわね”と笑いながら説明してくれた園子さんの話を総合すると、エステとは女性の体をケアするところだそうだ。
手足のマッサージだけでなく、脱毛、肌や毛穴の手入れなどをする場所だそうだが、私としてはピンと来ない部分がある。
マッサージだったら整骨院に行けば良いし、脱毛などは自然の摂理に任せておけば良い。ましてや手足の爪くらい自分で切ればよいのだ。
そんな疑問を口にしたのだが、たちまち園子さん反論されてしまう。
「あのね、真さん。女性って見た目を気にするのよ。お肌やムダ毛の1本をケアする事に命をかけてるのっ」
「はあ、そんなものですか?」
「そんなものなのよっ」
ううむ、どうも私には女性の心理が分からない・・・これはまだ修行不足という事なのだろう。
それはさて置いて、エステの帰りに園子さんは今着ている下着(れっきとした寝間着らしい)を買ってきたそうだ。
寝間着といっているが生地が薄いため、その下にある下着や肌が照明に浮き上がってしまい、その光景に私は思わず彼女から視線を外す。
元々が綺麗なのにエステとやらで肌を綺麗にしているため、幻想的かつ魅惑的な彼女の肢体を直視できない・・・そんな私の耳に園子さんの声が入った。
「それで明日、うちの系列ホテルのプールに蘭と一緒に行くんだけど良い?」
彼女の声を聞いた途端、私は自分のこめかみが僅かに動くのを自覚した。
“工藤さんとプールに?それはかなり危険極まりない行動だ”
つまり『園子さんの綺麗な肌と水着姿を、他の男共の目に晒す』事ではないか?
私の知ってる友人たちと一緒に鈴木家のプライベートビーチに行く、というなら別に構わない。
これは私を含めた男性陣が自分の奥さん(もしくは恋人)以外を眼中にしていないだけでなく、プライベートビーチだと見ず知らずの他人の視線に晒されない利点がある。
ただ系列ホテルとはいえ、外のプールに行くとなると、見ず知らずの男共の破廉恥な視線の的になるのは必至。
それが私には耐えられなかった。
多分、私がその場にいたら、彼女の肢体を好色そうな目で見た輩に速攻で“顔面ないし延髄に上段蹴りか膝蹴りを叩き込む”のは目に見えている(工藤くんも同じかもしれない)
ベッドサイドに腰掛けて物騒な事を考えている私を横目に、彼女は嬉々として明日着ていくであろう水着に悩んでいるようだ。
その光景を見ていた私の脳裏に、結婚式の翌朝に友人諸氏から言われた言葉が鮮やかに蘇る。
『鈴木さん、首筋にキスマークがついてますよ?何だったら落とし方、教えますけど?』
『おい工藤、鈴木ん姉ちゃんにもついとるで?こら昨夜は結構激しかったんちゃうんか?』
『平ちゃん、それは言わないお約束だろ。まあ無事に結ばれた2人に乾杯しようぜ』
大きくもない声で言うものだから、3人が顔を真っ赤にさせたそれぞれのお相手から殴られたのは言うまでもない。
「・・・さん、真さん?」
自分の名前を呼ばれて園子さんに顔を向けると、2種類の水着を両手に持った彼女の姿が目に映った。
「真さんは、どっちの水着が良いと思う?」
“どっちが良い”と言われても、両方とも派手で肌の露出度が高い・・・いわゆるビキニタイプというもの。
『冗談じゃない。あんな水着では他の男の欲望に油を注ぐようなものじゃないか』
苦悩する私と対照的に園子さんは、私が“どっちの水着を選ぶか悩んでいるのね”という表情で私を見ている。
『工藤くん、キスマークって、何でつくんですか?』
『キスマークですか?簡単な事ですよ』
説明によるとキスをする時に強く吸うと皮膚の下の毛細血管が破れてしまう・・・つまりキスマークとは皮下出血の事らしい。
もちろん皮膚の薄い部分ほど毛細血管は破れやすく、首すじにキスマークが残りやすいのも特に皮膚が薄いからである。
ただし毛細血管が強い人は少々強く吸われたところで血管は破れないが、逆に毛細血管が弱いと少し吸われただけで全身キスマークだらけになってしまうそうだ。
園子さんの持つ露出度の高い水着を見ながら、工藤くんと交わした会話を思い出した私は即座に行動に出た。
彼女の右手首を掴んで自分の方へ引き寄せると、短い悲鳴を上げて私の方へ倒れ込んだ園子さんが軽く私を睨む。
「真さん、何するのよ?」
私は抗議を一切受け付けず、無言のまま彼女の露出している首筋に唇を這わせて、思いっきり吸い上げた。
「んんっ・・・つ、冷たいよ、真さん」
どうやら髪をしっかりと拭いてなかったらしく、髪の毛から水滴が園子さんの肌に一滴、ニ滴と滴り落ちる。
「別に構いません。ほっとけば乾きますから」
唇を離すと、彼女の肌にはうっすらとした赤い痕が残り、私は更にその周囲にキスの雨を降らせた。
首筋から鎖骨、胸、腹部へと唇を這わせる度に、園子さんの口から小さな吐息が漏れる。
「や、やだ・・・真さん。こんなにキスマークつけたら・・・」
「“水着が着れない”のでしょう?分かっててやっているんです。あなたの水着姿を他の男に見せるなんて冗談じゃない」
そう言って彼女の唇を塞ごうとすると、園子さんの右手が私の口を塞いだ。
「もう真さんったら、独占欲が強いんだから・・・それともヤキモチの方かな?」
ハッキリ言えば両方である。ただ素直に認めてしまうのも照れくさいので、黙ってそっぽを向いていると園子さんが耳元でそっと囁く。
「素直に認めてくれたら・・・その・・・最後まで良いよ」
僅かに心臓の音が高く鳴った様な気がした。園子さんの方へ顔を向けると、彼女は顔を赤らめつつ悪戯っぽく笑う。
「あ、認めちゃうんだ」
「そうですよ。私は独占欲が強くて、ヤキモチ焼きなんです」
そう言うと私の口を塞いだ手が退けられて、園子さんが私に抱きついて来る。
無論、その可愛らしい唇も私のそれに押し付けられた。
最初は何時ものように軽いキスを交わす。数が多くなるにつれて激しさも増して行き、互いの舌を絡める度に唾液の音が静かな部屋に響く。
私が唇を離すと唾液が細い1本の糸となって園子さんの身体に零れ落ち、サイドランプから漏れる僅かな明かりが彼女の美しさを引き立てる。
「真さん、どうしたの?」
その姿に呆然と見入っていると、下の方から園子さんの陶然とした声が私の耳に届く。
「園子さんの肌を見ると、あまりに綺麗だから触るのが怖くてですね」
「そう言うわりには、思いっきりキスマークつけたじゃない」
先ほど私が付けた首筋から腹部まで1本の線の様になったキスマークを指でなぞりながら園子さんが言う。
答えに窮していると、急に抱き締められて私は園子さんの胸に顔を埋める格好になってしまった。
「・・・あの、園子さん。苦しいんですけど」
「別に良いじゃない。こうやって真さんと肌を合わせてると落ちつくの・・・って、ちょっと動かないでよ」
「〜〜〜っ(“動かないで”と言われても、このままでは私は呼吸が出来ないんですっ)」
確かに呼吸が出来ないのは事実であるが、逆に胸の感触が気持ち良かったりするわけだから始末が悪い。
このまま彼女の胸の感触に溺れるか、窒息するかの二者択一を迫られているのだが、私は第三の方法を思いついた。
幸い両腕は自由なので、左手を園子さんの腰に回して上体を起こし、右手で胸を軽く揉んでやる。
「ま、真さん、動かないでって言ったでしょ?」
「動けないと私は窒息するんてすけど」
そう口にしながら自分が付けた痕に舌を這わせ、左手の指を彼女の背筋に滑らせると同時にブラの上から右手で胸に刺激を与える。
右胸への一点集中攻撃、舌と指の動きを下から上へと進ませて行くうちに、彼女の声に艷が出て来た。
「んんっ・・・ち、ちょっと・・・ふぁっ」
何度か夜を共にしているので、相手の弱点は既に把握している・・・この件に関しては色事も格闘技も似たようなものだが。
左手でブラのホックを外し、胸が露わになったところへ右指で胸の突起を軽く弾くと園子さんの身体が僅かに仰け反る。
深く口付けながら右手を胸から腹部、そして秘部へと進めて下着の隙間から指を侵入させると、指に温かい・・・というより熱い液体が覆った。
「やんっ・・・あっ・・・はっ・・・・」
「園子さん、本当に可愛い声を出しますね」
「真さんのバカ、そんな事言わないでよ・・・恥ずかしいから」
謝罪の意を込めて唇を合わせると、汗と唾液が混ざったものがシーツに滴り落ちる。
唇を離して、互いの顔というより目を見つめると、互いに意を決したかのように頷いた。
ゆっくりと自分自身を園子さんの中に侵入させると、彼女の口から声が漏れる。
「大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫だから、続けてもいいよ」
その声を了承して体をゆっくりと動かしていると、ある思いが駆け巡った。
“園子さんは本当に可愛いな”
そう思うほど、彼女の夫としての印を刻み付けたくなる。この衝動は一体何なのだろう?
背筋に走る快楽に耐えながら園子さんの首筋を強く吸うと、赤い痕が“刻印”として残った。
「ま、真さんっ・・・あっ、はああんっ」
「園子さん・・・」
互いに唇を求めて激しい口付けを交わしつつ、私は右手を彼女の腰に回して自分の方へ引き付けると、園子さんの声が一際大きくなった。
『園子さんには誰も触れさせたくないし、見せたくない・・・』
そう思えば思うほど、動きが激しくなっている事に私は気づいた。実際に園子さんを見ると息切れ状態に陥っているし私も同様である。
「ま、真さん・・・私、もう・・・」
「わ、私も・・・くっ」
「ふあっ・・・あああっ」
瞬間、目の前が真っ白になる感覚を覚えて、私は全てを園子さんの中に放出し、そのまま繋がった状態で眠りについた。
翌朝、私が新聞を読んでいると園子さんが誰かと電話で会話をしているが、相手は工藤さんだろう。
『園子さんには悪い事をしましたね』
そう考えつつ新聞を閉じると、ちょうど電話を終わった園子さんと目が合った。
「電話、工藤さんからですか?」
「うん。蘭が“今日、予定していたプール行けなくなった”って」
「それは何故です?」
「蘭に昨日“今日の新一くんは燃えるわよ”って、言っちゃったのよねえ。そのせいでしょ・・・昨夜の誰かさんみたいに」
「その件に関しては誤りますが、私や工藤くん、他の方たちも独占欲が強いんですから。誰も自分の最愛のパートナーが他人の目にさらされるのが嫌なんでしょう」
園子さんを見つめながら話すと、彼女の頬に赤みが差しているのが分かった。
そして私の横に腰掛けて頭を肩に預けて動こうとしない。
「まあ、今日は予定も潰れた事ですし、お詫びと言っては何ですが2人で出かけるってのはどうです?」
「そんな事言うから、真さんの事を許しちゃうんだ・・・大好きよ、真さん」
そう言って私の左腕に腕を絡めてくる園子さんの顔を見て、私は自分の顔に血が上るのを自覚せずにはいられなかった。
終わり
後書き
AKIRAです。最後までお読み頂いてありがとうございます。
もともと「次は真園」と言ってたのですが、あおり様の「・・・は一日してならず」を読ませて頂いた時に『これの真園ヴァージョンって、どないなんやろ?』と思ったのが始まりです。
そして6月に行われたゲリラチャットで「“・・・は1日にしてならず”の真園編を書きます」と発言しましたが、そこからが長い道程でした。
原作者のあおり様にはご快諾いただいたのですが、書き始めてからは持病のお陰で意識不明になり、連日の猛暑で夏バテで体調を崩す最悪の状態。
長らくお待たせしました・・・という程の出来ではありませんが、お気に召して頂いたら幸いです。
次は久々に高佐を書きますが、何時になるかは不明です・・・それでは、次の作品でお会いしましょう。
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